『 みどりの炎 ― (2) ― 』
ひゅるり ― 風が夜の密林のニオイを運んできた。
「 う〜〜〜〜 な〜んかぞっとしね〜な〜〜〜 」
ジェットが薪を積み上げつつ 派手に肩をすくめた。
「 都会とはまったくちがった匂いだよね。 不思議な匂いだ。 」
ジョーも流れてきた空気にクンクンと鼻を動かした。
「 けどヨ なんかこう〜〜 ワクワクすんな〜〜〜 呼んでくれてサンキュ! 」
「 いや この前のインカ行きに間にあわなくて悪かったよ。
今回はさ、同じ大陸だし、君とジェロニモJr.にはどうしてもって思ってさ。 」
「 むう ・・・ ありがとう ジョー。 」
荷物をまとめて動かしていた巨躯の仲間が 静かに応えた。
「 ― さあ ・・・ 今夜はこの洞窟でキャンプだな。 」
「 ふん、探検の第一夜には上々だぜ〜〜〜 」
「 みなは〜〜〜ん!!! 晩御飯でっせ〜〜〜 」
奥の焚火の向こうから大人が声を張り上げている。
「 へ〜〜い 待ってたぜ! 」
「 うん、こんなジャングルの奥で大人のご飯なんて最高の贅沢かもしれないね。 」
「 ちげ〜ねぇな! 」
青年たちは声をあげて笑っていた。
サイボーグ達は南米の奥地に到達していた。
ジョーとフランソワーズ、そして張大人は途中でアメリカ在住組のジェットとジェロニモJr.
と合流し この地までやってきたのだ。
フランソワーズが持ってきた情報を突き止めにきた。 穴の底には何かいるのか?
ジャングルを抜け高原をしばらく進むと ― 問題の巨大な穴があった。
「 ふん ・・・ にしてもよ なんだってこんなでっけ〜のがぼこっとあるのかね〜 」
「 うむ。 自然にできた、とは考え難いよね。 」
「 ってことは??? 早速降りてみようぜ! 」
「 待った方がいい。 」
ぼそり、とジェロニモ Jr.が口を開いた。
「 もう夜だから かい? 」
「 それもある。 しかし この風が待て、と言っている。 」
「 ほんじゃ オレ ちょっくら偵察に飛んでくるぜ! 」
気の早い赤毛は もう宙に飛びあがっている。
「 あ〜〜〜 ジェットはん! ついでに薪、拾うてきてや〜〜 」
「 おっけ〜〜 」
あっと言う間に 彼は飛び去った。
「 風が待て、か。 そうだね、 もう暗いし ・・・ 今晩はここでひとまず休憩しよう。」
「 ほな 晩飯の用意するで。ジェロニモはん、あっちの荷物、もってきてくれはりませんか。
この焚火の側にカマドを置きますよって 」
「 わかった。」
「 あ わたしもお手伝いします。 」
フランソワーズは ずっと草原をみつめていたがゆっくりと戻ってきた。
「 フラン? なにか気になることがあるのかい。 」
「 ?? ジョー ・・・ どうして? 」
「 いや ・・・ ここについてから元気がないみたいだから。 」
「 あら そんなこと、ないわ。 ただ ・・・ こういう所って初めてだから・・・
なんだか見とれていたのかもしれないわ。」
「 ・・・ 高原の景色に? まあ ・・・確かに緑は多いけど・・・ 」
「 さあ 晩御飯よね〜〜 こんなトコで大人のご馳走を頂けるなんて〜〜 もう最高♪ 」
「 だよね〜〜 そのうちにジェットも薪の山と一緒に帰ってくるはずだし。 」
「 やっぱりねえ〜 わたし達、サイボーグだからこんなに沢山の荷物ももってこれたし・・・
暑さや寒さにも十分耐えられるわ。 やはりここの探検は非力な生身の人間には無理なのよ。
わたし達こそが ここにくるべき存在なんだわ。 」
「 ・・・ フラン ・・・? 」
「 だってそう思わない? 非力な人間がたった1週間かそこいらで探検できる、なんて
思いあがりもいいとこだわ。 」
かなりキツイ調子で滔々としゃべる彼女に 周囲は鼻白んでしまった。
「 フラン なにか ・・・ あったのかい 」
「 え? なにも。 なぜそんなコトを聞くの? 」
「 いや ・・・ ちょっと ね 」
「 ちょっと ってなによ? 」
「 ほっほ〜〜〜 まあ そんなら早いトコ オイシイご飯にしましょなあ〜〜
さあさ、 ジョーはん、小枝をもうちょい拾ってきてや〜〜 ジェロニモはん、その石をな
ココに置いてくれはりませんか〜 フランソワーズはん、レトルト食品、出してや 〜 」
大人がことさら明るい調子で皆に仕事を振り分けた。
白けてしまった空気は一遍に消え、 たちまち賑やかなキャンプ風景となった。
ドドド ・・・ シュワ〜〜〜っ!! 轟音と共に赤毛が空から降りてきた。
「 よ〜〜〜〜 薪〜〜〜 」
ドサッ ・・・! 薪 というか木の枝の塊が一括りになって落ちてきた。
「 どわ〜〜〜〜!!? 危ないがな〜〜〜 」
「 へ わりぃ〜〜 けどよ、こんだけあればひとまず安心だろ? 」
「 ― 生の木、燃えない。 枯れ枝を集める。 」
「 げ〜〜〜 ・・・ 焚火なんてよ〜〜 やったコト、ねぇんでよ〜〜 」
「 あらら・・・ いいわ、この中から燃えそうなのを選びましょう。 」
「 あ それはぼくがやるから・・・ フランは大人を手伝って食事の用意を頼むよ。 」
「 わかったわ〜 それじゃ お二人さん、薪の分別をお願いね。 」
「 へ〜〜〜い 」
「 フランソワーズはん〜〜 そんじゃ 始めまひょか〜〜 」
「 はい 大人。 今夜のメニュウはなににしましょうか。」
「 オレ! ステーキ〜〜〜 !! 」
木の枝の山の中から 陽気な声が響いてきた。
「 あほ! 今晩はポーク・ビーンズ中華風 や! 」
げ ・・・★ 大人以外の仲間達全員が 密かに胸をさすった。
― 洞窟の中にはまだ良い匂いの空気が漂っている。
サイボーグ達は皆、防護服での野営なのだが満腹と満足にまったりとしていた。
「 は〜〜〜〜 ・・・ 喰ったぁ〜〜〜 うまかった〜〜〜 」
行儀悪く脚を投げだし 赤毛ののっぽは腹をさすっている。
「 そらよかったワ。 あんさんのお蔭で鍋はきれいさっぱり空っぽでっせ〜〜 」
今晩の料理人は に〜んまりと空の鍋を眺めている。
「 うふふ・・・ 本当に美味しかったわ〜〜 こんなジャングルで最高の贅沢かも・・・
あ できれば赤ワインの軽いのがあったらなあ〜〜 」
「 ははは ・・・ フランもジェットとどっこいどっこいだよ〜〜
ああ ホント、美味しかったよ〜〜〜 サンキュ 大人 〜 」
ジョーもほっと寛いだ表情だ。
「 美味い食事、生命の源 ・・・ 」
「 そうよねえ さあ後片付けはわたしとジェットでやるから・・・
ジョー、テントの設営をお願いね。 」
「 わかったよ。でもちょっと食後の散歩をしてくるよ。パトロール兼ねて・・・いいだろ? 」
「 そう? ・・・ あまり遠くまで行かないでね。 」
「 りょう〜〜かい 〜〜〜 」
「 俺 機材運ぶ。 」
「 サンキュ〜〜 助かるよ〜 」
ジョーはジェロニモと積み上げた荷物の前に立った。
「 え〜〜〜と? 簡易テントは・・・っと 」
「 ジョー。 これだ。 」
「 あ 速〜〜〜 5個あるはず ・・・ ひ ふ み よ〜 っとこれだ! 」
ジョーは細長い荷物をひっぱりだした。
「 ねえ ジェロニモ。 聞きたいんだけど ・・ 」
「 むう? 」
「 あ〜〜 あの さ。 この辺りで緑の炎っていう言葉はあるのかな。 」
「 みどりのほのお ? ・・ 詳しくいことは知らない。
しかし ミドリの輝石はこの地でよく採れる。 」
「 輝石・・・って 宝石類かい 」
「 らしい。 俺も見たことはない。 」
「 宝石 かあ。 あ じゃあこの穴は採掘跡なのかなあ 」
「 ここ深い。 深すぎる。 人間の手で掘れる深さではない。 」
「 あ そうだよなあ。 じゃあ 機械で堀ったのか?? 」
「 地底での爆発 隕石の落下 もある。 」
「 う〜〜〜ん するとやはり・・・ この穴の中には なにか が? 」
「 わからない。 しかし ― 声 聞こえると言った。 」
「 声?? 誰が・・・ 」
「 ・・・・ 」
ジェロニモは口を噤んだまま 紅一点を振り返った。
「 ・・・・ 」
ジョーもだまってその視線を追った。
紅一点 は じっと星空を見上げていた。 その白い横顔には淋しい笑みが浮かぶ。
さすがに皆の視線を感じたのだろう、彼女の視線はゆっくりと地上に戻ってきた。
「 ・・・ え なあに? 」
「 いや ・・・あ〜 なにか見えるのかな〜って思ってさ。すごく熱心に空を見てたから 」
「 いつだって想いを籠めて見ているわ ・・・
懐かしいあの地 ・・・ わたしの故郷 ・・・ わたしのあの人 ・・・
― ああ ・・・ ! 帰りたい ・・・ !! 帰りたいの わたし 」
彼女の声は次第に低くなってゆき ゆらゆら・・・ 身体が前後に揺れ始めた。
「 ― ! 」
がし。 大きな手が彼女の肩を抑えた。
「 いけない。 お前はここに居なければいけない。 この星がお前の故郷。 」
ぽん・・・ とジェロニモ Jr.はごく軽く彼女の頬に指を当てた。
「 ・・・・ あ ? 」
「 もどってきたな。 さあこっちだ。 ジョー ? 」
ジェロニモは微笑むと彼女をジョーに託した。
「 あ ・・・ ありがとう、ジェロニモ〜〜 」
「 さ さあさ ! デザートやで〜〜〜 ちゃ〜んともってきたァるで。
ほいほい〜〜 フランソワーズはんの好きな護摩煎餅もありまっせ〜〜 」
「 ひょえ〜〜 まるでマジシャンだなあ〜〜 すげ〜〜 」
「 ほっほ〜〜 ジェットはん、桃饅もあるデ。 さ〜〜 しっかり食べて
今晩はゆ〜〜くり休もうやないか。 」
「 そ そうだね! 明日からの探検に英気を養っておこう! 」
「 おう〜〜〜 ウェルカム〜〜 桃饅〜〜〜 」
焚火の周囲は また賑やかな雰囲気となった。
その夜は五つの簡易テントを 焚火を囲む風に張ってそれぞれ休んだ。
不寝番は敢えて置かなかった。 戦闘中ではないのだから・・・
そして 夜半過ぎ ― 二人は濃密な熱い時間を過ごした。
燃える夜 は 次第にねっとりとした密林の夜気の中に飲みこまれていった。
ピチュ ピチュ チチチ 〜〜〜 ギャア〜〜 ギャア〜〜〜
キキキ 〜〜〜 ぐるるるるる ・・・
朝のジャングルは都会の騒音なみの賑やかさだった。
「 ほっほ〜〜〜〜 おはようさん〜〜〜 ええ 朝でんなあ〜〜〜 」
メンバーが個人テントを出て来た時には すでに焚火は陽気に燃え上がり鍋からは
良い香が流れだしていた。
「 まあ 〜〜 早いのねえ、張大人 」
「 ほい フランソワーズはん、おはようさん。 お日さんぎょ〜さん照ってはるよって
はよ目ぇ覚めてしもうた。 いよいよ今日は < 出発 > やさかい。 」
「 だよな〜〜 へっへ〜〜 まずは腹互しえ と 〜〜 」
「 へえ? ジェット 珍しく早起きだね? 」
「 腹のムシがうるさくてよ! さあ〜〜〜 喰うぞ〜〜 」
「 ここは 静かだ。 精霊たちに挨拶をしたが 皆寡黙だ。 」
ジェロニモ Jr.が 静かに座に加わった。
彼も早起きをして穴の付近を周ってきたという。
「 ふうん ・・・ 準備おっけ〜 で いよいよ出発だね! 」
「 おう〜〜〜 オレがまずひとっ飛びで降りるか? 」
「 いや それは危険だよ。 < 底 > はどうなっているかわからないからね。 」
「 へ そんじゃ地道にちくちく降りてゆくってか? 」
「 ウン。 体力的にはぼく達にとっては容易い仕事だからね。 」
サイボーグ達は一様ににんまりとし、自分らの特殊な身体を プラス に考える数少ない
チャンスを大いに歓迎していた。
― カツ −−−− ン ・・・ ・・・ ポシャン・・・!
足元から落ちた小石が かなりたってから小さな水音を響かせた。
「 ひょ〜〜〜 ・・・ ふっけ〜〜〜 」
ジェットがすぐに反応した。
「 うん ・・・ 底までかなり深いね。 フラン、見えるかい。 」
ジョーは片手に持った松明を翳した。
「 まって。 ・・・ 水がある・・・ あ これは川だわ! 水が ・・・光ってる? 」
「 光る水 ?? 」
「 ― 下は賑やかだ。 」
「 そやけど ふぅ〜〜 えろう深おますなあ〜 」
問題の巨大な穴の中に見つけた亀裂を彼らは張り切って降り始めた。
淀んだ空気や湿気を想定していたのだが 岩壁を降りてゆくにつれてそれは否定された。
「 ふうん ・・・ 空気が動いているよね? 」
「 そう ね。 どこかに出口があるのかもしれないわ。 でも なにか・・・
わたしの視界を邪魔するものがあって・・・ よく見えないのよ。 」
「 出口?? けどよ〜〜 下は地底だぜ?? 」
「 でもほら ・・・ ここの空気中の酸素濃度は外とほぼ同じだよ? 」
ジョーが腕につけていた計測機を示した。
「 ここの空気は 生きている。 行こう! 」
ずい・・・っと巨躯を屈め、ジェロニモ Jr.が先頭に立った。
「 ― あ 」
「 どうした フラン? 」
「 ・・・ ずっと ― このまま降りて。 川の側に出るわ。 」
彼女の声音が変わった。 ナヴィゲーターとしての頼もしい声が一行を誘導し始める。
「 ジェロニモ、 次の岩は踏まないで! あなたの重さではくずれるわ!
ジェット! 左の岩を掴んではだめ! 脆い岩なのよ、落ちる!
・・・ ジョー! 松明で右の方を照らして。 岩が飛び出しているの、危ないから・・・
大人〜〜 そこは跨いで! 砂岩だから崩れるの。 」
松明の灯だけの薄暗い中、 フランソワーズの的確な指示が飛ぶ。
「 お〜〜らい! へへ・・・003のナヴィ、カンペキじゃん〜〜 」
「 アイヤ〜〜 謝謝〜〜〜 フランソワーズは〜〜ん♪ 」
「 むう・・・ 助かる。 」
「 ありがとう! フラン ・・・ 」
「 皆 いい? この下が少し狭まっているの。 一種のトラップよ!
慎重に抜けて。 ひっかかると大きく崩れるわ。
あ・・・ジェロニモ、あなたは右の割れ目から行って! そっちの方が広いの。 」
矢継ぎ早に飛ぶ彼女の声を頼りに ジョーたちはどんどん地の底の底へと降りてゆく。
「 うん? 下の方からぼうっと光がくるね? なにか ・・・ あるのかな 」
「 川よ。 川底の岩が光るの。 」
フランソワーズの確信を持った答えがすぐに飛んできた。
・・・ ふうん? 随分詳しいんだな ・・・
まるで ・・・ 通いなれた道を歩いているみたいだけど
― あれ?
最初は < よく見えない > って言ってたじゃないか
「 フラン ・・・ よくわかるんだね? 」
「 え? え ええ。 だって < 見える > もの。 わたしは003なのよ? 」
「 あ は。 ごめんごめん 」
「 さあ 気をつけて! ここを通れば川岸に降りられるわ! ジェット、左! 」
「 お〜〜っとぉ ・・・ すまねぇ〜〜 サンキュ! 」
「 川やな〜〜〜 ほんならココがどん突きちゃうねんか ? 」
「 むう ・・・ 川 ・・・ 地底の川 ! 」
「 すごなあ〜〜 ホントだ、岩が光ってるよ! この先も進めるかい フラン? 」
「 ・・・ え? 」
フランソワーズは ぼんやりと川を眺めている。
「 この川に沿って進めるかな? 」
「 ― ごめんなさい、あまり遠くは < 見えない > のよ。
なにかわたしの視覚を妨げるモノがあって ・・・ ずっとよく見えないの。 」
「 ああ 無理するなよ。 じゃあ ― ゆっくり進もう! 」
「 おう! 」
?? さっきとは全然違うぞ ・・・?
声の調子も ・・・ うん、雰囲気も ・・・
どうかしたのか ― 怪我 とかじゃないようだけど
ジョーはさり気なく彼女を庇う形で 先に立って歩き始めた。
「 ! シッ ・・・! 止まって! なにか ― 来るわ!! 」
「 なに??? 」
ギャア ギャア ギャア 〜〜〜〜 彼女の言葉が終わる前になにかが襲ってきた。
「 うわ〜〜〜〜 な な なんだ〜〜〜〜 」
「 と 鳥? いえ 違うわっ これは ・・・ 白いコウモリ?? 」
「 コウモリだって?? 」
「 アイヤ〜〜〜〜 コイツ 噛みつくネ! 痛!! 」
「 ジェット! スーパーガンで追い払え! 」
「 お おう! 」
ヴィ −−−−− ・・・! 地底にスーパーガンが炸裂した。
「 クッソ〜〜〜〜 後から 後から湧いてきやがるぜ〜〜 」
「 ムウ。 気をつけろ、これは吸血コウモリだ! 」
「 フン! ワテの血ィ吸うて、えらい料簡やな! ― 散るよろしっ!! 」
ゴ〜〜〜!! 大人の炎がコウモリどもを追い払う ・・・ が すぐに新手がやってくる。
「 しつこいヤツらだなっ えい えいっ ! 」
ガ〜〜〜〜〜 ザザザ ・・・
今度は何か別のケモノが襲ってきた。
「 う? 動物・・・・ いや 人間??? 人間が殴りかかってきたァ 」
「 む? ・・・これは ・・・ 原人 ?? 」
「 ウソやろ〜〜〜〜〜 」
今度はコウモリの大群に紛れて 二足歩行の動物が攻撃してきたのだ。
攻撃 と言っても兵器などは用いていない、ごく原始的な攻撃 ― つまり殴る 蹴る ・・・
といった方法で襲い掛かってきたのだ。
奴らの姿もその攻撃方法に見合ったもので ― 所謂 原始人 的風貌だ。
「 このヤロ 〜〜〜〜〜 !! 」
「 アッチ 行くあるネ!! 」
「 おい フラン? どこだ?? フラン〜〜〜 !? 」
ジョーは応援しつつ必死でフランソワーズを引き寄せようと探している。
「 フラン〜〜〜 ? おかしいな、コウモリが襲ってきた時には確かにぼくの
隣にいたのに ・・・ フラン?? どこだ??? コイツらに喰いつかれたら
きみの皮膚では一たまりもないぞ! ぼくの後ろに隠れろ〜〜 」
サイボーグ達はコウモリと原人を必死で退けようとするのだが ―
「 ウォ 〜〜〜〜 ! コイツら ・・・ 恐れる心が ない! 」
「 なんだって ??? 」
「 ち! ったくよ〜〜〜 恐怖心のないヤツって始末に負えねぇんだよなっ
ほんじゃいっちょう 上から岩でも落とすか? 」
「 いや それはマズイよ。 ここが崩れてしまったら 〜〜 」
「 ワテら ぺちゃんこでっせ〜〜 こらぁ〜〜〜 燃えるアルよろしっ! 」
大人の炎も あまり効果がない。
彼らはじりじりと追い詰められ始めた ・・・ その時。
「 おやめなさい っ 」
洞窟の中に 凜とした声が響き ― その瞬間に全ての攻撃が止まった。
「 な??? なんだ??? 」
「 え この声 ・・・ まさか 」
ジョーの顔が引きつった。
「 見ろ。 」
ジェロニモが すっと指を上げる。
彼らの前には ― フランソワーズが立っていた。
「 おやめ。 さあ 一緒にあの方のところに行くのです。 」
ザワ ・・・ ブゥ〜〜〜 ギャギャ ・・・
固まっていた原人たちはなにやら声を発していたが すぐに彼女の側に集まってゆく。
コウモリたちは さっと洞窟の奥に飛び去った。
「 フランソワーズはん? あんさん どないしたん?? なしてコイツらがあんさんの
命令を聞くんや?? 」
「 ?? おめ〜 ホントにフランかよ〜〜? 」
ジェットがずいっと彼女の詰め寄った。
ヴ 〜〜〜〜 ガガガ ・・・ すかさず原人達から呻り声があがる。
「 静かにしなさい。 そこのモノたち、わたしと一緒に来るのです。 」
「 おい〜〜〜?? ジョー、お前、なんとか言ってみろよ? 」
「 ・・・ いや。 ここはこのまま・・・ 彼女についてゆく方がいい。 」
「 へ?? だって 」
「 さっきの反応を見ただろう? 彼女に近づいたり触れたりしたら、アイツらがまた
集団で襲ってくるよ。 」
ジョーはちらりと原人たちを見た。
「 げ〜〜〜 」
「 行こう。 なにかが ― いる。」
ジェロニモはすっと前に出て仲間たちを促した。
「 うん わかった。 ここは彼女に従おう。 」
「 なんかちゃうで。 フランソワーズはんの雰囲気とちゃうやんか 」
「 し ・・・ ! 」
フランソワーズは慣れた道をゆくが如く 薄暗い地下をすたすたと進んで行く。
しばらく行くと 急に視界がひらけた。
「 ?? うお〜〜〜〜〜〜 すっげ〜〜〜 ここは鍾乳洞だったのかよ?? 」
「 アイヤ〜〜〜 どど〜んと広くなってゆくやんか〜 」
「 静かにしろよ。 どこに行くのかな。 あ! なにか・・・誰かいる! 」
「 げげ また原人か? 」
「 ― いや ・・・ 奴らとは違う ? 」
「 お帰り。 無事でなにより ・・・ 」
彼らの頭上から 女性の声が聞こえてきた。
見上げれば 岩壁の上部が張り出しテラスのようになっていた。
その上に ― 人間が立っていた。 声の主であろう。
逆行になっているので 顔かたちがはっきりとはわからない。
た ・・・ っとフランソワーズが小走りに前に出た。
「 御方様。 大変遅くなりました・・・ お召しに遅参、申し訳ありません。 」
「 ・・・ 待ちわびていました。 」
「 御召しのおん声は聞こえていたのですが ・・・ 申し訳ございません。」
彼女は 岩壁の上に立つ女性にむかって腰を折り挨拶をしている。
≪ 皆 ! 脳波通信回路 オープンだ! ≫
ジョーが指示をだした。
≪ おっけ。 おい フラン、呼んでみろよ ≫
≪ 呼んだ。 けど 応えないんだ。 というか 回路を開いてない。 ≫
≪ 俺 呼び続ける。 任せろ。 ≫
≪ ありがとう! ジェロニモ! 皆 油断するな ≫
≪ わかってまんがな。 さっき岩茸、みたで。 あれ、美味いんや、採って帰ろ ≫
「 そのほうたち! なにものです ! 」
さきほどの声が また響いてきた。 大音声、というのではないが、がんがんとアタマの中に
コダマする。
「 御方様。 彼らはわたしが連れてきました。 」
フランソワーズが静かに答えた。
「 そなたが? 」
「 はい。 従者が必要でございましょう? あちらへ帰るためにも ・・・
人手は必要ですわ。 原人たちでは無理ですから。 」
「 なるほど ・・・ では 応えてもらいましょう。 」
「 なにものか? さあ 答えなさい。 」
ビン !! 空気が震えた。
その瞬間、彼女の容貌がはっきりと見えた ―
皺を深く刻んだ老婆だ。 白銀の髪が大きく揺れている。
しかししゃんと背を伸ばした姿には威厳があり サイボーグ達を頭上から見下ろす大きな瞳が
ぎらりと光り ・・・ まっすぐに見据えてきた。
う わ!? これは ・・・ テレパシー ・・・!
圧倒的な強さでぐいぐいと心に喰いこんでくる圧迫感に、ジョーでさえくらくらした。
「 ・・・ ワイは 張々湖や。 中国人や 」
「 ジェット ・・・・ ジェット・リンク アメリカ 」
「 ジェロ ・・・ ニモ 」
仲間達は素直に単純に 答えている。
ふん ・・・ ここで反応しないのはマズイな。
フランのこともあるし ― ここは 掛かったフリをするか
「 ジョー ・・・島村ジョー 日本人 」
「 御方様。 どうぞこやつらを下僕としてお使いください。 」
「 ふん。 宮殿の方につれておいで。 」
「 畏まりました。 」
フランソワーズは腰を折ってお辞儀すると 仲間たちを振り返った。
「 お前たち ついてくるがいい。 」
「 ・・・・・ 」
な なんだ??? フラン??
彼はアタマを垂れたまま じっと仲間の様子を観察していたが ― 皆 ふらふら・・・
フランソワーズの後について歩き始めた。
≪ おい! ジェットっ !! しっかりしろっ 大人っ! ジェロニモ〜〜 ! ≫
脳波通信を矢継ぎ早に送るが 返答はない。
ふん ・・・ 仕方ない、ここは大人しく彼女に着いてゆくか ・・
― お ?? こ ここは ・・・
彼らはやがて地下の大宮殿と思しき場所に出た。
「 へ〜〜〜 すっげ〜〜〜 地下にこんな大きな建造物があるなんてなあ〜 」
ジョーは催眠術に罹ったフリをし、よろよろと進む。
「 止まれ ! 」
「 ・・・・・ 」
再びつよい声音が心の中に響き 彼らは自然に脚を止めた。
意識ははっきりしているのだが 老婆の声に逆らうことができない。
「 御方様 ・・・ 」
「 そなたは控えておいで。 その者たちに聞きたいことがあるからね。 」
「 はい。 」
「 そこな赤い髪のモノ ・・・ わらわの瞳をみるのだ。 」
「 へ・・・ なんだってんだ ・・・? ・・・ ・・・・ 」
「 ― ああ お前はまだ愛する対象をみつけていない。 お眠り。 」
かくん、とジェットは膝を突くとそのまま床に寝転がってしまった。
「 巨きなオトコ 面をお上げ。 」
「 ・・・ むう 」
「 ・・・ 豊かだ。 お前はとても深く暖かい存在だ。 少し休め。 」
どん。 ジェロニモ Jr.が珍しくも尻もちをつく。
「 丸いモノ こちらをごらん。 」
「 ワテの名ァは やな ・・・ 」
「 お前も深く温かい ・・・ な。 いい匂いだ。 眠ってよいぞ。 」
ころん。 大人は見事に地に転がってしまった。
「 ! なぜお前は < 起きて > いるのだ?? 」
大きな目が まっすぐにジョーを見つめる。 視線がぐいぐいと心に喰いこんでくる。
「 ぼ ぼくは ・・・! 護るの だから 」
「 ― お前は 想うこころ でいっぱいだ。・・・ だから私のチカラが効かないのだね。 」
う ・・・ ! さすがのジョーも一歩も動くことができない。
「 御方様! どうぞこの者たちを下僕に! 」
フランソワーズが ぱっと立ち上がった。
「 そなた ・・・ あの石を もっているね?? 」
「 はい。 < 外 > で見つけました。 どうぞ ・・・ 」
彼女はハンカチに包んだなにかを大切そうに取り出した。
・・・? なんだ・・・? なにかみつけていたのか ?
そんなこと、なにも言ってなかったぞ・・・
ジョーは金縛りにあったみたいな状態のまま 視覚だけは必死で働かせる。
「 こ これを ・・・ < 外 > で ? 」
「 はい。 ・・・あの御方様の念が ずっとこれを護っておりました、長い年月の間・・・」
「 ・・・ おお おお わたしの アーガムン ・・・! 」
老婆は震える手で 緑に輝く石を受け取った。
「 ずっと ・・・・ ずっと待っていた ・・・ いつかは必ず帰ってくると・・・
それなのに ・・・ アナタはこれを残して・・・ 」
「 御方様 〜〜 あの方はこの穴のすぐ近くまで戻っていらしたようでした。
草原の岩陰に 熱い熱い念がその石をひっそりと隠しておりました。 」
「 そ ・・・ うですか。 アーガムン ・・・ !
貴方はやはりここに戻ってきてくれていたのですね・・・ 」
「 再び故郷の星に戻るために この星であれこれ画策なさったのでしょう・・・
しかしこの星にはあの原人たちに見合った程度の文明しか芽生えておりません時代だった
のではないでしょうか。 」
「 そなたは ― 」
老婆は石をしっかりと抱いたまま フランソワーズを見つめる。
あ ・・・ 危ないっ !! く〜〜〜〜 か 加速装置 ・・・ !
ジョーは渾身の力を込めて 奥歯のスイッチを噛んだ。 しかし加速装置は起動しない。
― ガチャ ッ ! ジョーの足元の岩が崩れかけた。 が 彼は動けない。
「 そこにおるのだ お前。 この者にはなにもしない、安心せよ。 」
「 う ・・・? 」
老婆は胸の奥から やはり緑の石をとりだした。
「 この緑の輝石 ・・・ ああ わらわもこの石があったから生きてこれた、
老いる早さをとても遅くすることができたのだ。 しかし ・・・ もう ・・・ 」
「 御方様!! その輝石のパワーでこやつらをコントロールすれば!
必ずや故郷に星に戻ることができましょう。 」
フランソワ―ズはなにやら必死に訴えかける。
「 ・・・・・ 」
老婆はゆっくりと首を振り ひっそりと笑みを浮かべた。
「 御方様 !! 」
「 ― もう よい。 アーガムンがおらぬなら故郷に戻ってなんとする ・・・
もう よい ・・・ わらわにはこの輝石があれば それで十分だ。 」
彼女はゆっくりと二つの緑の輝石を 重ね合わせた。
パア −−−−−−−−− ・・・・・!!!!
周囲は眩い光でいっぱいになった。
岩壁の大宮殿の中は 昼よりも人工的な照明よりももっと明るく照らし出された。
「 ・・・ お 御方様 ・・・・ 」
「 そなたも もうお帰り。 そなたが帰るべきところに。 」
「 わ わたしは ・・・ 」
ガタン ッ !! 金縛りが解け勢い余ったジョーが石床に転がり出た。
あ ああ ・・ !
老婆は いや 洞窟の女王は みるみるうちに若く美しく匂い立つ姿となった。
緑の光が彼女の全身を包んでゆく。
う !!?? あの光は ・・・ 不老の効果があるのか??
ジョーは床に這いつくばったまま、まだ動けない。
「 ・・・ ああ アーガムン ・・・! 」
輝く美貌の女性は 緑の輝石を胸に抱いた。
すると ― 光の中からつい、っと屈強の男性が現れた。
「 ああ ああ ・・・ 愛しいヒト! 待っておりました・・! 」
男性は穏やかに微笑むとそっと彼女を抱き寄せる。
「 必ず帰ってきてくれる、と信じて待っておりました。 私のアーガムン・・ 」
「 ・・・・・・ 」
「 でも 貴方はすでに命尽きてしまったのですね ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
男性は悲し気に頷く。
「 ああ ああ 故郷に帰る意志も消えました・・・ 今は貴方と共に 」
「 ― ・・・ 」
男性が美貌の女性をしっかりと抱きしめた。
「 ・・・ 暖かい ・・・ 私のアーガムン ・・・ 」
「 御方さま!! そんな ・・・ ! 」
フランソワーズは 緑の光に必死で近づこうとしている。
ふ フラン ・・・! だめだ〜〜〜〜 戻ってこい 〜〜
ジョーはじりじりと這いつくばりつつ 動き始めた。
「 そなた、もうお帰り。 見失ってはいけない。
そなたには帰るべきところがあるだろう? 自分の周りをよく見るのだ。 」
「 ・・・ 帰る ところ・・?? 」
「 ふぁ〜〜〜〜 なんだぁ〜〜? 」
「 ・・・ ムウ? 」
「 アイヤ〜〜〜〜 ?? 」
眠りこけていた仲間達が次々に起き上がる。
「 お前たち。 そこな丸い男。思い出は大切に。 そなたがおぼえている限り
彼の女性 ( ひと ) は生きているのだから。 」
「 ・・・ そやろか ・・・ そやなア ・・・ 」
「 巨きな男。 お前の豊かな心に感謝しているよ。
赤毛の? お前、まだ巡り逢っていないヒトを大切にするのだよ。
そして ― お前 ? 」
女性は 真っ直ぐにジョーを見つめた。
「 そなたも帰るべき場所を探していたね。 ずっと探していたね?
ホーム は すぐ目の前にある。 ― 見失ってはいけない。
」
そして すぐ側にいるフランソワーズに優しい視線を向けた。
「 そなたの心が ― 帰りたい心 が私の呼び掛けに反応したのだよ。
そなたの帰るべきところは わかっているね? 」
こくん。 フランソワーズは素直に頷いた。
緑に輝く女性は にっこりとほほ笑み ― 男性と共にぱあ〜〜〜っと燃え上がった。
「 ! あの光は !? 」
ジョーは必死で目を凝らせたが さすがに009にもはっきり見極めることはできなかった。
その夜 ―
満天の星空に緑の星がひとつ、冷たい炎の尾を曳いて流れた。
「 え・・・ 皆は? 」
「 うん なんだかね〜 急用なんだってさ。 」
帰路、南米のとある国際空港で ジョーとフランソワーズは二人だけで出発ロビーにいた。
「 え〜〜〜 急用?? 」
「 ウン ・・・ じゃ ・・・ 行こう か。 」
「 え ・・・ ええ そう ね。 」
「 ん。 」
大きな手が 差し伸べられた。
「 うふ。」
しなやかな手が 委ねられた。
「 フランソワ―ズ。 帰ろう ― ぼく達の家へ。 」
「 ジョー。 ずっと一緒ね。 」
恋人たちはしっかりと寄り添い 歩み始めた。
***************************** Fin.
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Last updated: 10.26.2014.
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************** ひと言 *************
大した改変はしていませんが ・・・
実は すげ〜ババアだった・・・ってのはどうもね??
キレイに終わらせてみたかったのですにゃ☆